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古座川の河内祭り

本州最南端と言えば、和歌山県串本町である。
熊野灘に横たわる大島や、橋杭岩の奇岩を眺めながら海岸線を走ると、古座川の河口に開けた古座の町が現れる。和歌山市からだと南に約150キロ。すさみ町まで高速道路が開通して便利にはなったものの、やはり遠い。山から攻めても海から攻めても広すぎて、いつまでたっても全容がつかめないのが紀伊半島だ。

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古座は「もうひとつの熊野古道」と言われる古座街道の終着点。真夏の週末、ここを目指してやってきたのは河内祭りを見るためだ。こうちまつり、と読む。古座川流域の5つの集落で受け継がれてきた伝統的な祭礼だ。

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「祭りを見るなら前日の宵宮からがよい」と聞いていた。
町の中に入っていくと、昔ながらの祭の風情がそこはかとなく漂っている。
河口では小中学生による櫂伝馬競漕が行われ、老人たちも川べりにゆったりと腰掛けている。
涼しい川風が吹いて、何とも心地よい夕まぐれ。

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そこから3キロほど上流に遡って古座川町に入ると、川の中に浮かぶ小さな島がある。この島全体が「河内様(こおったま)」と呼ばれる御神体である。
日没から始まるのが、神様を迎える夜籠神事。海の民の町らしい華麗な水上渡御が執り行われる。扇型に飾り立てた鯨舟(古座浦では江戸時代、古式捕鯨が盛んだった)が川面に漕ぎ出すと、氏子たちの歌うまったりとした御舟唄が舟から聴こえてくる。御舟は河内様(小島)のまわりを連なって3周まわるのだが、「3周目に神様が乗り移ってくるから急に重くなる」とも。

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闇の中の神事なので撮影は早々に諦めたのだが、おかげで神秘的な雰囲気を味わうことができた。夜籠神事では牛鬼のようなものが現れたとか、蛇が出てきて遠吠えしたとか、不思議な話も色々とあるようだが・・・、ありそうな気がする。

下の写真は翌日の本祭り。右端の小島が河内島だ。水上渡御は、源平の戦いに出陣した古座水軍が凱旋する様子を現しているという。古座水軍とは、熊野地方を拠点とした熊野水軍の一派である。

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前日の優美な夜籠神事とは一変し、法螺貝や爆竹が響いて、いかにも水軍らしい勇壮さ。人の少ない対岸や橋の上を移動しながら、うっとりと見とれる。私の近くには子連れの若い女性がいたのだが、御舟が行き過ぎるとベビーカーを押して追いかけるように歩き出した。赤ちゃんの父親は、おそらく舟の上なのだろう。

法螺貝、爆竹、御舟唄、蝉、喧騒、ベビーカーの音などが重なって、ちょっと面白い音が録れた。(爆竹の大きな音にご注意ください)

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舟渡御が終わると、わらわらと舟から降りてきた古座青年会の男性たちが、さっそうと獅子舞を舞う。
河内祭りの獅子舞は古座獅子舞と言われ、国の無形民俗文化財にも指定されている。紀南地方の獅子舞は、ここから伝わっていったのだとか。

山と海をつなぐように繰り広げられる美しい川の祭りは、水の神への素朴な自然信仰が起源であるという。

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