② 新宮市神倉〜熊野市井戸町を編む

夏も盛りを過ぎた土曜の朝、友人たちと3人(古座街道の山中で養蜂家に救助されたメンバー)で和歌山市を出発した。目指したのはもちろん熊野。(今回はロケハンをかねた旅で、写真家の照井さんは同行していません)
海沿いに続く高速道路を田辺で下りて、中辺路、本宮を通り過ぎると熊野川にぶち当たる。そこから川に沿って国道168号線を走っていくと、どちらを向いても山また山。最後のトンネルを出たところで、突如として新宮の市街地が現れる。場面が急転するこの瞬間、まるでカラクリ舞台のようだ。

最初のコンビニで新宮市職員の辻村裕一さんと合流。辻村さんは友人の知り合いで、私とは初対面だ。「縄文好きの面白い人がいるから会いに行こうよ」と誘われたのだが、そんなマニアックな方には見えなかった。最初は。

和歌山県新宮市は熊野川を県境として三重県と隣接している。辻村さんに案内をお願いしたのは主に三重県側だ。熊野川の向こうに足を踏み入れてこそ、熊野文化圏の全容が見えてくる。そう思ってはいたが、いやはや、想像を超えて濃密だった。

巡ったポイントは、概ね以下である。

▼「布引きの滝」三重県熊野市紀和町
4段からなる滝で、この写真に見えるのは落差約29メートルの4段目と滝壺。
修験道の行場にもなっていたそうだ。

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▼ 引作(ひきづくり)の大楠 三重県南牟婁郡御浜町
推定樹齢1500年。南方熊楠と柳田国男の尽力により伐採を免れたという歴史を持つ。この巨木、照井さんが撮影したら物の怪のように見えるかも。

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▼ 神内(こうのうち)神社 三重県南牟婁郡紀宝町
磐座(いわくら・カミが宿ると考えられている巨石)を御神体とし、社殿はない。熊野の自然崇拝を今に伝える古社で、宗教学者の植島啓司氏によると「とんでもないパワースポット」だとか。

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▼ 大馬(おおま)神社 三重県熊野市井戸町
清流に沿って続く参道は神秘的な気配に満ちている。伝承によると、平安時代の武官・坂上田村麻呂が賊を殺し、その首を埋めて社殿を建てたのが起源。この賊は鬼ケ城に住み「鬼」と呼ばれていたと、鳥居の前にいた地元のおじいさんが話してくれた。鬼ヶ城とは、ここから約4キロ離れた海岸にある奇岩の景勝地である。

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大馬神社には狛犬がない。なぜなら、七里御浜に並ぶ二つの奇岩が巨大な狛犬と考えられているからだ。
▼ 阿の狛犬(”あ”のこまいぬ・口を開いた状態)とされる獅子岩

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▼ 吽の狛犬(”うん”のこまいぬ・口を閉じた状態)とされる神仙洞の人面岩

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海を睨む奇岩を狛犬に見立てるなんて、いかにも熊野的だ。

続いて向かったのが、「まないたさま」。産田神社(イザナミノミコトが火の神カグツチを産んで亡くなったとされる聖地)の背後の山を車で登っていくと、「まないたさま」と書かれた案内板があり、そこから徒歩で谷間を10分ほどくだる。

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▼ まないたさま 三重県熊野市有馬町

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重なり合う巨石(ご神体)や、鬱蒼とした森の様子が沖縄の斎場御嶽(せいふぁうたき)とよく似た感じだ。なぜ「まないた」かと言うと、「真名井戸」が訛ったのだろうとのこと。水源地なので、水神への信仰が古くからあったのだろうと傍の案内板に記されていた。周囲にゴロゴロ転がる苔むした巨石。その間を流れる谷川の水。”縄文”を探し求めて熊野を歩くなら、絶対にはずせない聖地だ。(そんな人も少ないだろうけど)

▼ 大丹倉(おおにくら) 三重県熊野市育成町赤倉

高さ約300メートル、幅約500メートルの赤い色をした大絶壁の、ここはてっぺん。

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展望は素晴らしいが、高所恐怖症の人は怖くて立てないと思う。私たちが行ったのは日没間近で、暮れてゆく空と山並みの色が本当に、うっとりするほど美しかった。

翌朝はやく、神倉神社に参拝した。源頼朝が寄進したと伝わる自然石の急な石段を登ると、”ごとびき岩”が鎮座している。

▼ 神倉神社 和歌山県新宮市神倉

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新宮の市街地と熊野灘、熊野川が望める。
ごとびき岩に宿るカミが毎日見ている(かもしれない)風景。

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下の写真は今回ガイドをしてくださった辻村さん。御出身は大阪だが、熊野の自然と縄文の古層に魅了されて移住した。巨石にも詳しく、石のことなら磐座から腎臓結石まで幅広く語れる。

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おみやげにもらった「縄文バッチ」は辻村さんのオリジナル。「じぇいって、どうよ?」とつっこみを入れつつ、喜んで胸に付けましたとも!

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【ロケハン途中に立ち寄った店】

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勝丸   和歌山県新宮市春日2-12     (TEL 0735-23-0205)

新宮駅の近くにある魚料理の店で、大漁旗が目印。太地町出身の大将は、31年間クジラ漁をしていたという元漁師さんです。「勝丸」は大将が乗っていた漁船の名ですね。新鮮なお刺身がいただける日替わりランチもお安くて800円。私のおすすめはトビウオのすり身のさつま揚げ。これ、めちゃウマでした。めったに食べられないというマグロの腹身も焼いてくれたのですが、脂っぽくなくてあっさり上品な味でした。

 

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木花堂  三重県熊野市須野町13   TEL 0597-70-4068

熊野の海辺に、こんなお店があるなんてびっくり。住民が数人しかいない「須野」という集落なんです。辻村さんに教えてもらわないと、絶対にたどりつけなかった。古民家を改修した店内にはアクセサリーや器、稲わら草履など素敵な雑貨が並んでいます。「いい湧き水があるから、ここに住むことに決めたんです」とオーナー夫妻。「みちとおと、見たことありますよ」と嬉しいことを言ってくださいました。木花堂さんのホームページはこちらです

 

投稿日:2016年9月5日
カテゴリー:みちとおと取材記熊野を編む
文:北浦雅子