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2014年3月27日

手塚沙織さん

熊野びと

山の暮らし、森の仕事、集落の祭、民話や伝説、熊野に暮らす人々に聞きたいことはたくさんあります。
みちの途中で伺ったお話を、音声とともに伝えていきます。

狩猟を仕事にする若き狩女(かりじょ)が熊野にいる。そんな噂を聞いた日、熊野川沿いのカフェでばったり遭遇。さっそく取材のお願いをして話を聞くことができました。

手塚沙織(てづか さおり)さん/1989年生まれ、青森県青森市出身。和歌山市に移住して会社員を経験したあと、本宮町大津賀(おおつが)へ。現在は野生動物の狩猟や解体、加工を学びながらジビエの普及につとめている。(ジビエとは、狩猟で得た野生鳥獣の食肉のこと)

新卒で就職して和歌山へ

大学までずっと青森にいて、専攻は考古学でした。青森も好きですが、就活の時に「関西の会社にしよう」と思ったんです。青森の人はまわりの目を気にするところがあるけれど、関西の人って感情をおもてに出しますよね。そういうところがいいなぁと。私には継がなければいけない家業もなかったし、両親も「あんたの好きなようにしていいよ」と言ってくれたので。

和歌山市には初めて行ったけれど、地方都市らしい雰囲気が好きでした。それで運輸倉庫の企業に就職したんです。事務仕事の部署に配属されて1年やってみたけれど、会社員って自分がすごくがんばっても評価されない。悩んでいた時、知人から「熊野でジビエの仕事をやらないか」と声をかけてもらったんです。大津荷にジビエ加工の施設ができたから、そこで働かないかと。増えすぎた野生動物が畑や山を荒らすので、その対策としてシカやイノシシを獲らないといけない。でも、ただ殺傷するだけではなく食肉として活用できたらいいですよね。

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食肉加工施設「ジビエ本宮」

わな猟で獲物を仕留める

それで転職を決めて熊野に来たのですが、これまで狩猟や解体の経験は一度もなかったです。今、仕事を教えてくださっている猟師の師匠も、私が来た時はびっくりしたみたい。女性で大丈夫なのかと。でも私は以前から、女子だから男子だからと区別されて見られるのがすごく嫌だったし、この仕事も女性だからできないということはないです。

わな猟の免許もこちらに来てから取りました。狩猟免許には、わな猟や銃猟などの種類があるんです。「くくりわな」って知ってますか。けもの道に仕掛けるんですが、円形に広げたワイヤーの中に動物の足が入るとバネの力でガシャッとしまって足首をくくる。それを整備して、まわりに餌をまいたり、ワイヤーをはったりします。

わなを仕掛けたら毎朝見に行って、かかっていたらその場で殺します。足だけがしばられている状態で、ワイヤーは近くの木にしばりつけてあるので獲物はクルクルまわって暴れるんですが、タイミングを見てナイフで刺します。「檻わな」は大きな常設の檻です。中に餌を入れておいて、動物が入ると侵入口が閉まって出られなくなる仕組みです。

これが私のナイフです。止め刺し(獲物のとどめを刺すこと)用で、心臓まで届くもの。これで皮をはいだりもします。ちゃんと一発でとどめを刺すようにしないと、ただ怪我をさせてしまうだけです。

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手塚さんの止め刺し用ナイフ

おいしく食べるためにすべきこと

はじめて自分で仕留めたシカも、自分でさばきました。仕留めたらなるべく早く、血抜きをしないといけない。心臓をめがけて血が抜けるように刺してあげるとか、内蔵をはやいこと抜いてあげるとか、常温においておかないで早く冷やすとか、素早く作業をしないと。ちゃんと血抜きができてないお肉は、びっくりするくらいおいしくないんです。

解体は二人がかりでやると、1時間くらいの作業です。そこからお肉をブロックに分けて冷凍したり、ミンチにしたり。「シカの肉は臭みがあるでしょ」ってよく言われるんですけど、ちゃんと血抜きをしたものは牛や豚よりもあっさりしておいしいです。ローストしてそぎ切りにして食べるか、ぐつぐつ長い時間をかけて煮込むんです。私はカレーで食べることもあるし、ミンチを肉まんにしたり、肉団子にしてお鍋に入れたり。ローストは調理も味付けも簡単でおいしいですよ。鹿肉は低カロリーで高タンパクなので、例えば妊婦さんや筋肉をつけたい人、ダイエットをしたい人にもむいている食材です。脂っぽさがないので、食べやすいお肉です。

私の家は両親が共働きなので、幼稚園と小学校には祖父母の家から通っていたんです。ご飯を食べるとき、おばあちゃんに「ご飯つぶをきれいに食べなさい」っていつも言われました。だから物心ついた頃から自然と、食べ物を大事に食べようとずっと思ってきました。

感じることの大切さ

この子はまだ小さくて肉の量がとれないので解体はしませんが、結婚式場のレストランが欲しいと言ってるのでそのために。イノシシを丸焼きの料理にするところを、イベントとしてお客に見せるそうです。

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捕獲されていたイノシシ

子どもたちへの食育で、飼っていた鶏や豚を解体して食べるという取組みがありますよね。何も感じないほうがおかしいです。感じますよ。それでいいんだと思います。ペットや家畜として飼って長いあいだ接していると愛着がわくのも人間の感情だし、でもお肉を食べたいっていうのも人間の感情だし。その間に殺さなきゃいけないのは可哀想だって思うのも、全部あると思うので。

私は動物のことに関わってますけど、植物も一緒だと思います。植物も悲鳴が聴こえないだけかもしれないし感情があるかもしれない。そんなのは憶測だけですけど。命は命ですからね。誰もが自分で手をかけなくてもいいし、それはできる人がやればいいと思うんです。お肉は食べても、殺すところを見られない人もいます。自分で手をかけなくても、その現場を見られなくても、命をいただいていることを、食べるときに少しだけでも考えてくれたらいいなと思います。

命あるものは、ていねいに

狩猟の仕事を始めてから「命あるものはていねいに食べよう」とあらためて思っています。でも昔の人は、そんなことをあえて言葉にしたり考えたりすることもないくらい、当たり前のこととしてやってきたことだと思うんです。生きるために命をいただいているけれど、元々その命は人間が食べるための命ではなくて、その命自身が永らえるための命。植物だとしても、動物だとしても、その命を奪っているならていねいにいただきたい。

今の仕事は自分でやったことの結果が出るからやりがいがありますね。今年は猟銃の免許も取る予定です。自分で鉄砲を持って、犬を連れて山へ行きたいと思います。ジビエを中心にして、ここで生計をたてていくのが目標です。

手塚沙織さん

聞き書き:北浦雅子  撮影協力:佐々木康年さん