落人の里の物語「本宮町大瀬」

里のみち

熊野の道は里を結びながら、山中を迷路のようにめぐっています。古老たちの語りや歌、伝説に導かれながら行く里の道。訪ねたのは大瀬(おおぜ)・高原(たかはら)の集落と、兵生(ひょうぜ)の廃村です。

ある日のこと、図書館の本棚で小さな薄い冊子を見つけました。『古里の記』という題で筆者は大瀬(おおぜ)に住む前久保國一さん。不便で貧しかった山里の、かつての暮らしをしたためた昔語りの文章でした。「遠からずこの地も消え去るのではないか」との序文に、故郷を失う寂しさが伝わってきました。

私が大瀬の地名を知ったのは、その時が初めてです。
調べてみると、そこは平家の落人伝説を持つ里で、珍しい太鼓踊りが継承されているとか。前久保さんは残念ながらお亡くなりになっていましたが、ご親類や地域の方々に話を伺うことができました。

現在、大瀬の住民はわずかに11人。取り残されたような静けさの中に、今年の夏も太鼓踊りの音頭が響きます。