中辺路町兵生〈5〉廃村の秋祭り(前編)
里のみち
熊野の道は里を結びながら、山中を迷路のようにめぐっています。古老たちの語りや歌、伝説に導かれながら行く里の道。訪ねたのは大瀬(おおぜ)・高原(たかはら)の集落と、兵生(ひょうぜ)の廃村です。
10月のはじめ頃、朝来平(あそだいら・兵生の皆さんが集団移住された地区)の西みき子さんから電話をいただいた。「13日の朝8時に集会所から出発しますよ」とのお知らせ。
当日の早朝、6時頃に家を出て朝来平近くの集会所に到着し、しばらく待っていたら男の人たちがちらほらと集まりだした。前回の取材で話を聞かせてくれた西 義友さんも含めて5、6人。
初対面の方たちにも挨拶すると「あんたら、なんで兵生(ひょうぜ)知ってんの?」「どこで聞いてきた?」と不思議そうなお顔。
かくかくしかじかで、すでに廃村にも取材に行ったと話すと「なんっとまぁ、奇特な人らやなぁ」と力を込めて言っていただき、「そうかも」と思う。
軽トラックの荷台には屋台と太鼓。「ほいたら行きましょか」と言って走り出したので、奇特な我々も後ろをついていく。
車は国道をそれてどんどん山の中へ。やっぱり、ずいぶん山奥だなと改めて感じつつなおも行く。未舗装の泥道を、がったんがったん縦揺れしながら兵生の廃村に着くと、春日神社の鳥居には幟が立てられて境内に10人ほどの人々が集まっていた。
車を降りると、富田川の源流から清らかな水音。「おじいちゃん、おじいちゃん!」と子どもたちの可愛らしい声も森に響いている。
神事が始まった。宮司さんはいないので、祝詞をあげるのも氏子さんたちだ。家内安全、交通安全などを祈願してお名前を読み上げながら、途中で何度も獅子舞を奉納する。
お囃子は太鼓を叩く義友さんと、笛のお二人。獅子舞は伊勢神楽系のようで、息切れしたら「ちょっと休憩しょうら」とほのぼのした雰囲気だ。
あたりは深い山々。松若さんも森のどこかで聴いていたらいいのに。