⑧ 写真集の印刷代は、いくらかかるか?

写真集出版に向けて取材を開始してから、そろそろ1年。掲載する作品もざっくり決まった。次なるハードルは印刷である。写真集の印刷って、ぶっちゃけどのくらいかかるものなのか。
ネットで大まかな見積もり金額が出るサイトで試してみることにした。ページ数や部数を適当に入れてみたら、え? 100万円超えるのね。

だからと言ってあとに引く気はないし、「どうせなら業界トップクラスの印刷会社に相談に行こう!」と逆に気持ちをふるい立たせる。
信頼している編集者に尋ねたら「写真集なら京都のサンエムカラーでしょう」と紹介してくれたので、少し前のことですが3人(照井・硲・北浦)で行ってきました。

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サンエムカラーの創業は昭和59年。ウェブサイトを拝見すると、これまで名だたる写真家の写真集を手がけておられる。(木村伊兵衛賞を受賞している方の写真集も多い)
そして何より心をつかまれたのが、創業者・松井勝美氏を紹介する映像「京都 刷師 匠の世界」である。(以下、クリックしてみてください。サンエムカラーさんのサイトです)

http://ameblo.jp/sunm123/day-20100820.html

刷師ですよ、刷師!
オフセット印刷の魔術師、神のような存在であり閻魔大王!

もう、かっこよすぎて、ひるむ。

私どもが行っても大丈夫なところなのか……?

その日、出迎えてくださったのは出版プロデューサー・前川さんだ。緊張しつつ伺ったのだが(私は緊張してましたが、他の2人は知りません)、親切で気さくな方でお話をしているうちにほっとする。最初に案内してもらった展示室も、そこはかとなく昭和の香りが漂っていてほっとする。

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展示室でサンエムカラーの沿革についても、教えていただいた。もともと国宝などの文化財や絵画の複製印刷から始まった会社だそうで、いかにも京都らしい。
その卓越した印刷技術が注目を集め、今では全国の出版社や写真家、クリエーターから美術印刷の依頼が多いとか。展示している写真集の数々がそれを物語っている。

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「では具体的なお話を」ということで、「校正室」でテーブルを囲んで座る。
いくつか参考になる写真集を拝見しつつ、こちらの希望を伝えると、

「上製本の写真集だと印刷・製本に300万ぐらいかかりますね」

くらっとしてお腹の力が抜けた。
上製本とはハードカバーの本であり、そこは結構こだわっていたのだが……。
「はぁ、そうですか」と答えてしばし無言。
あからさまに意気消沈していたら、前川さんは代替案を出してくれた。コデックス装という製本様式なら、費用が抑えられるとのこと。(現段階では、私たちの予算は発刊後の経費も入れて150万。ひとり50万ずつを3人で出し合う予定だ)
サンプルを見せてもらうと無骨な粗さがあって、我々が目指す写真集にふさわしい。
しかも180度ぱっくり開くので、写真集に向いている。素敵だ。
むしろ、上製本より良いではないか。

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「ようやく先が見えてきましたね!」と前川さんがほがらかに言ってくださり、我々も大きくうなずいた。頼もしい限りだ。
その道のプロに話を聞くことを恐れてはいけないのだと、あらためて思う。

3人ともが「サンエムカラーさん、前川さん、どうぞよろしくお願いします!」という気持ちになっているのは互いの顔を見ればわかったし、コデックス装で見積もりをお願いして京都駅に戻った。

その後は編集会議である。
場所は照井さんと硲さんが宿泊する「ピースホテル京都」の共用スペースだ。外国人観光客に人気のゲストハウスのようで、なんだかおしゃれ。

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共用スペースは宿泊客が自由に使えるようになっているし、本棚にはアートブックが並んでいる。もれ聞こえてくる英語と、コーヒーの香り。
ちなみに硲さんと照井さんが泊まった部屋はドミトリーで一泊2700円だったそうだ。
 

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写真の掲載順を決めて、台割(本の設計図のようなもの)を作る作業に没頭する。こんな楽しい作業は、めったにないですよ、というくらい楽しい。
熱中していたらあっと言う間に夜になり、宿泊客がわらわらとやってきたので慌てて退散する。

次なる移動先は京都タワー近くの焼き鳥屋。「すごくいい印刷会社に巡りあえましたね」とか「もっと働いて、資金を稼いでおかねば」などと話しながら、オーダーストップまで座り込んで焼酎を呑む。

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その後、前川さんから届いた見積もり金額はと言うと、
A4サイズ・112ページ・500部で税込1,441,908円。
ギリギリ予算内かもと思ったが、そうは甘くはない。
B4サイズ正方形で再度見積もりをお願い中。なので、ここからさらに上がるのだ。

これはがんばって稼がないとやばい、と思っていたら、先月は仕事がたくさんきて忙しかった。「みちとおと」のウェブサイトを制作した頃から思っているのだが、苦しい中でも投資を決めると仕事が地味にまわってくるような気がする。地味に、ですよ。

写真集のタイトルは『狼煙』。のろし、と読む。

特設ページも先日公開の運びとなりました。出版までの道のりは引き続き記事にしていきますので、よろしくお願いいたします。

(↓リンク貼ってます)

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ウェブサイト制作/硲勇

 

投稿日:2017年6月11日
カテゴリー:みちとおと取材記熊野を編む
文:北浦雅子