⑥ 熊野の写真と紀州の地酒

2017年が始まって41日目の金曜日。東京在住のデザイナー、硲勇さんと和歌山城近くの市川ビルの一室で編集会議をした。少し遅れて写真家の照井壮平さんも参加。私も照井さんも、東京出張の際にはそれぞれ硲さんと会っているが、3人そろって顔を合わせるのは久しぶりだ。

照井さんがていねいに包みをほどいて、数十枚の写真を出した。部屋いっぱいに並べられた熊野と高野山の風景は、鋭敏な感性で写し取った紀伊山地の断片。

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しばらくしてから「いい本になりますね」と硲さんが言った。目が嬉しそうにらんらんとしているし、頬も上気している。私も胃の底あたりに力を込めて「間違いないですね」と返した。
圧倒的に、いい本にする。

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私たちは出版までのスケジュールを確認し合い、構成やタイトル、印刷会社や部数などについて夜8時頃まで話し合った。具体的なイメージが固まってきたし、ここから先も冒険だがひとつずつ乗り越えていけばよい。

打ち合わせのあと、「一杯呑みにいきましょう」と3人で寒風の吹く街に出た。のれんをくぐったのは、照井さん行きつけの居酒屋、城月である。私は初めてだったのだが、実は少し前から気になっていた。城月のマスターとおぼしき方が、みちとおとのfacebookページの投稿に時々「いいね」をしてくれているので「ありがたいな」と思っていたのだ。

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この店の魅力はいろいろあるが、特筆すべきは紀州の地酒の品揃えの多さだ。黒牛はもちろん、紀土、車坂、里の花、龍神丸、般若湯、太平洋などびっくりするほど多くの地酒の中から3種類を味わえる「のみくらべ」がなんと500円。心おきなく3人分頼んだら、テーブルの上に9種類の地酒が並んで極楽の天国みたいになった。

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グラスの底を覗き込むと、木製の台に銘柄を記した紙がはさまれているという手の込みよう。日本酒への深い愛情が感じられてうれしい。「和歌山の蔵元も、ここ数年でずいぶんがんばっている。いいお酒をつくってますよ」とマスターが目を細めて語る。日本酒は寒い地方がよいと思っていたが、「浅はかでした」と詫びたくなるほど紀州の地酒がおいしかった。もちろん和歌山の新鮮な食材を活かした料理の数々も。

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酔った勢いでマスターに「みちとおとの投稿にいいねしてくれてましたよね」と聞くと
「え? みちとおと? 知らん」って言われたけど(笑)

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みちとおとfacebookページで更新のお知らせをしています。

【DATA】
城月
和歌山県和歌山市雑賀町東ノ丁63(県庁近く)
17:00〜23:00
日曜定休
電話 073-423-4896

投稿日:2017年2月12日
カテゴリー:みちとおと取材記熊野を編む
文:北浦雅子