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2014年6月27日

本宮町大瀬〈8〉ふたたびの夏

里のみち

熊野の道は里を結びながら、山中を迷路のようにめぐっています。古老たちの語りや歌、伝説に導かれながら行く里の道。訪ねたのは大瀬(おおぜ)・高原(たかはら)の集落と、兵生(ひょうぜ)の廃村です。

2014年6月、梅雨の晴れ間に大瀬を訪ねた。同行してくださったのは関東在住の前久保さん。『古里の記』の著者、前久保國一さんの御親類にあたる女性だ。

何度も書くが、私が大瀬を知ったのは前久保國一さん(故人)の冊子を図書館で見つけたことがきっかけ。昔語りの古老の文章に感動して大瀬を訪ね、集落の皆さんにお話を伺い、珍しい盆踊りも取材させてもらった。

その記事を「落人の里の物語」としてウェブサイトで連載したところ、御親類の前久保さんが見つけてくださって、メールのやりとりが始まった。前久保さんに伺ったかつての大瀬の話、國一さんの記憶、盆踊りの夜のエピソードなどは、私の想像力を掻き立ててくれた。

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案内してもらったのは、大瀬の集落から山を登っていったところにある彼女のおじさんの家。

車をとめて、山の一軒家に続く階段をのぼっていく。家はかなり上なので、けっこうしんどい。
「以前は階段がなかったから、遠回りして山の道を歩いていくしかなかったんです。この階段を造ったからずいぶん楽になったんですよ」と説明してくれたので驚く。

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出迎えてくださったのは前久保 実さん、73歳。大瀬で一番の若手なので、区長さん。
「73歳で一番若いからな。死ぬまで区長やめられへん」と笑う。

 

「山の上で不便ではないですか」と尋ねると「うちはまだ、下のほうやったんやで。昔はこの上の、平(たいら)っていうとこに40軒ほど家あったんや」とおっしゃる。
そういえば、公民館で皆さんにお話を聞いたとき、90歳を超えるおばあさんが「平はええとこやったんやで」と言っていた。その方も今は、山の下に住まいを移しておられる。

「あの人も昔はね、米を一斗背負うて、この前の道をタッタカ登っていたもんや」

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國一さんの甥にあたる、前久保 実さん

小柄な女の人が米袋を背負って、たくましく山道を登っていく姿が目に浮かぶ。
「ええとこやったんやで」と目を細めながら話してくれた時の、しみじみとした声も思い出した。

あれから一年。國一さんを「くにおじ」と親しみを込めて呼ぶ方と大瀬を訪ねることができて、前久保家のお墓にもご挨拶させてもらえた。とてもありがたいし、嬉しく思う。
この世のかたも、あの世のかたも、ありがとうございます。

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文:北浦雅子